個人的ノスタルジアを感じよう!

column M1 20後藤

こんにちは。M1の後藤です。

前回の記事ではノスタルジアの定義と分類の話をしました。その中で個人的ノスタルジアと歴史的ノスタルジアが出てきましたが、今回は「個人的ノスタルジア」に焦点を当て、その記憶システムと機能、臨床的応用について話をしようと思います。前回の記事を読んでいない方は、さらっと目を通すとわかりやすいかもしれません。

個人的ノスタルジアの記憶システム

個人的ノスタルジアは、自分がいつどこで誰と何をしたかといった出来事の記憶である「エピソード記憶」に基づきます。これを思い出す時に、自分のことを振り返る「自己内省的意識」が働き、その結果個人的ノスタルジアが喚起される、と考えられています[1]。

しかし、個人的ノスタルジアがどのような心理的メカニズムで喚起されるのかは、まだ明らかになっていません。川口は、個人的ノスタルジアを感じる心理的メカニズムを、記憶システムの最近の研究をもとに考察しています[1]。興味のある人は読んでみると面白いかもしれません。

個人的ノスタルジアの機能

心理学研究によって、個人的ノスタルジアにはさまざまな機能があることが分かってきました。その中から機能のいくつかを紹介します。

感情に関する機能

個人的ノスタルジアが喚起されると、悲しいネガティブな気分がよりポジティブに変化することがわかっています[2]。落ち込んだりへこんだりした時には、思い出に浸ると気が楽になるかもしれません。

しかし、普段からネガティブなことを考えやすい人は、個人的ノスタルジアが喚起されると不安や抑うつ傾向が高くなることもわかっています[3]。ですので、個人的ノスタルジアを臨床応用する際は、対象者の性格に注意が必要です[4]。

自己に関する機能

個人的ノスタルジアは、顕在的・潜在的な自尊感情が高めることがわかっています[5]。また、個人的ノスタルジアは、人生に対する意味づけをしやすくすることも明らかになっています[6]。自分に自信が持てなくなったり、人生に行き詰まったりした時には、一度立ち止まって、思い出に立ち返るのもよいでしょう。

社会性に関する機能

個人的ノスタルジアが喚起されることによって、孤独感が低減するという研究があります[7]。また、ノスタルジアな気分を感じることによって、他者との社会的つながりをより感じる状態になる、ということがわかっています[2]。個人的ノスタルジアは自分の中だけで完結しているようで、実は外部との関係性もあるんですね。

個人的ノスタルジアの臨床的応用

個人的ノスタルジアは医療福祉の中で注目されており、中でも認知症高齢者の心理的援助を目的とした「回想法」というものがあります[4]。

回想法とは、回想を誘導する写真や音楽などを用いて回想を行い、心理的な安定や人生を肯定的に受け入れる手助けをするものです。回想法の対象は、認知症高齢者だけでなく、鬱状態や終末期にある患者などさまざまであり、家族や夫婦に対しても行われることもあります。

個人的ノスタルジアを用いた回想法の効果としては、以下のようなものがあります。

  • 人生の意味づけ
  • セルフ・アイデンティティ(自己同一性)
  • 自己肯定感の維持・向上
  • 社会的絆の強化
  • 記憶の活性化
  • ポジティブ感情

おわりに

今回は、個人的ノスタルジアに焦点を当てた話をしました。個人的ノスタルジアが喚起される心理的メカニズムはまだ明らかになっていませんが、さまざまな機能があることが分かってきました。そして、実際に活用されている例として、回想法を挙げました。

時代が進み、技術が進歩し、現在は日々生まれる新しいモノに囲まれる暮らしになっています。しかしそんな中でも、時には昔の思い出に浸り、個人的ノスタルジアを感じる時間は必要だと、私は思います。個人的ノスタルジアを生活に溶け込ませ、日常の中で個人的ノスタルジアの恩恵を受けられる技術があったらどうだろう、と妄想を膨らませて研究に取り組んでいます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

参考文献

[1]川口潤. ノスタルジアとは何か―記憶の心理学的研究から Juncture, 2, 54-65, 2011.

[2]Wildschut, T., Sedikides, C., Arndt, J., & Routledge, C. D. Nostalgia: Content, triggers, functions. Journal of Personality and Social Psychology, 91, 975-993, 2006.

[3]Verplanken, B. When bittersweet turns sour: Adverse effects of nostalgia on habitual worriers. European Journal of Social Psychology, 42(3), 285-289, 2012.

[4]楠見 孝. なつかしさの心理学―思い出と感情―. 誠信書房, 2014.

[5]Baldwin, M., & Landau, M. J. Exploring nostalgia’s influence on psychological growth. Self and Identity, 13, 162‒177, 2014.

[6]Routledge, C., Arndt, J., Wildschut, T., Sedikides, C., Hart, C. M., Juhl, J., Vingerhoets, A. J. J. M., & Schlotz, W. The past makes the present meaningful: Nostalgia as an existential resource. Journal of Personality and Social Psychology, 101, 638‒652, 2011.

[7]Zhou, Xinyue, et al. Counteracting loneliness: On the restorative function of nostalgia. Psychological science 19.10, 1023-1029, 2008.

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