五感とノスタルジア

column M1 20後藤

こんにちは。M1の後藤です。

今回は、五感とノスタルジアの関係性に迫り、身の回りにあるノスタルジアについて考えたいと思います。「ノスタルジアとは何か」ではノスタルジアの定義と分類の話をしていますので、まだ読んでいない方はご一読していただくと、本記事がわかりやすいかもしれません。

五感とは

五感とは何でしょうか。知っている方もいるかもしれませんが、一応確認しておきましょう。Wikipedia「五感」には、こう書かれてあります。

五感(ごかん)とは、動物やヒトが外界を感知するための多種類の感覚機能のうち、古来の分類による5種類、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚をさす。

つまり、私たちが普段意識せず感じている、見ること、聞くこと、触れること、味わうこと、嗅ぐこと、の五つの感覚を、「五感」というのですね。

五感の情報の割合については、さまざまな文献があります。屋内照明のガイド(1980)[1]では「視覚が87.0%、聴覚が7.0%、嗅覚が3.5%、触覚が1.5%、味覚が1.0%」と書かれています。産業教育機器システム便覧(1972) [2]では「視覚が83.0%、聴覚が11.0%、嗅覚が3.5%、触覚が1.5%、味覚が1.0%」と書かれています。いずれにしても、視覚が大きな情報源を担っていることには変わりはなさそうですね。


画像出典: いらすとや

五感とノスタルジア

視覚とノスタルジア

視覚は五感の中で最も大きな情報源であるため、ノスタルジアを感じるのにも重要であることは想像に難くありません。目に入るものは全て視覚を通していますから、ノスタルジアを感じるきっかけとなるものは身の回りに溢れています。

個人的ノスタルジアが喚起されるものとしては、昔の写真、小さい頃に遊んだおもちゃ、だいぶ前に流れていたCM、久しく会っていない旧友、などがあるでしょう。昔の写真を用いた、「回想法[3]」や「共想法[4]」という、認知症高齢者を対象とした臨床的応用もあります。

歴史的ノスタルジアが喚起されるものとしては、田舎の風景、セピア色の写真[5]などがあるでしょう。

聴覚とノスタルジア

聴覚は視覚の次に大きい情報源とされています。聴覚は、耳を塞がない限り勝手に感じ取っていますが、ノスタルジアとどのように関係しているのでしょうか。

個人的ノスタルジアが喚起されるものとしては、よく聞いた音楽、学校のチャイム、流行していたヒットソング、などがあるでしょう。音楽によってノスタルジアを喚起させる研究[6]もあります。

歴史的ノスタルジアが喚起されるものとしては、移動販売の豆腐屋さんのラッパ、火の用心の拍子木、祭囃子などが挙げられます。

触覚とノスタルジア

触覚によって感じられるノスタルジアとは何でしょうか。正直、私はパッと浮かんできませんでした。

個人的ノスタルジアとしては、毛皮を触ると昔飼っていた犬のことを思い出したり、草原に寝転ぶと河川敷で遊んだ幼少期を思い出したりするかもしれません。

歴史的ノスタルジアとしては、和紙や畳を触ると、なんとなく昔の感じがするかもしれません。

味覚とノスタルジア

味覚で感じるノスタルジアは、意外とイメージしやすいかもしれません。

個人的ノスタルジアですと、昔食べたナポリタンの味や、給食のカレーの味などがあります。小さい頃から食べている母親の料理は「お袋の味」と呼ばれますが、これも個人的ノスタルジアが関係しているのではないのでしょうか。

歴史的ノスタルジアは、郷土料理を食べた時などに感じられるかと思います。

嗅覚とノスタルジア

最後に、嗅覚とノスタルジアです。

嗅覚と個人的ノスタルジアとの間には、「プルースト効果(現象)」という重要な現象があります。日医on-line「においと記憶」にはこのような説明があります。

特定のにおいが、それに結びつく記憶や感情を呼び起こす現象は、プルースト効果と名づけられている。フランスの作家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出す場面があり、その描写が元になっているということである。

つまり、なつかしい匂いを嗅ぐことによって、個人的ノスタルジアが喚起される、ということですね。例としては、実家の柔軟剤の香り、昔歩いた銀杏並木の匂い、などがあるでしょう。

視覚、聴覚、触覚、味覚を通じて喚起される個人的ノスタルジアは、きっかけとなるものと直接的に関連する記憶が想起されると思いますが、嗅覚を通じて喚起される個人的ノスタルジアは、匂いに関連する周辺の記憶が想起されるような気がします。そのような点では、嗅覚とその他の感覚には違いがあるのかもしれません。

余談になりますが、2020年にヒットした瑛人さんの「香水」の歌詞には、次のようなフレーズがあります。

別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ

別れた彼女が使っていた香水の匂いを嗅いだことによって、付き合っていた当時のことを思い出しているのかもしれませんね。

話は戻りますが、歴史的ノスタルジアとしては、畳の匂いや野焼きの匂いで感じられるかもしれません。このような田舎特有の匂いは、歴史的ノスタルジアを喚起すると考えられます。

おわりに

今回は、五感とノスタルジアの関係性に迫り、身の回りにあるノスタルジアについて考えてみました。五感を通じて感じられるノスタルジアの例を見ると、思ったよりも日常的にノスタルジアを感じていることがわかると思います。

「個人的ノスタルジアを感じよう!」では、個人的ノスタルジアを感じることによるメリットについて話しました。五感を使って個人的ノスタルジアを感じることで、個人的ノスタルジアの恩恵を受けてみてはいかがでしょうか。

また、五感というのは自らの感覚器官が感じる感覚であるため、自分が経験していない感覚をイメージすることは難しいです。そのため、五感の中でも、特に触覚、味覚、嗅覚によって歴史的ノスタルジアはを感じることは困難かもしれません。一方、視覚や聴覚においては、実際に経験していなくても、テレビや映画などをみた経験から、「これは文化的になつかしいもの」と理解することもあるので、歴史的ノスタルジアが感じられることもあると思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

参考文献

[1] 照明学会. 屋内照明のガイド. 電気書院, 1980.

[2] 教育機器編集委員会. 産業教育機器システム便覧. 日科技連出版社, 1972.

[3] 梅本充子. グループ回想法実践マニュアル. すぴか書房, 2011.

[4] 大武美保子, 豊嶋伸基, 三島健稔, and 淺間一. "認知症を予防する共想法の提案と介護予防施設における実施." ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集, 2A1-A11, 2007.

[5] 小川喬史, 北神慎司, and 川口潤. "歴史的ノスタルジアを喚起する風景画像: Web 調査による分析." 日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会. 日本認知心理学会, 2019.

[6] 小林正法, and 大竹恵子. "主観的幸福感と抑うつ傾向がノスタルジア状態の喚起に与える影響――音楽によるノスタルジア状態喚起を用いて." パーソナリティ研究, 27-2, 2018.

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