新しい情報システムの作り方

column M1

世の中は常に変革し続けています。現在は、新しい情報システムの登場・普及によって変革がもたらされる例をよく見ます。本稿では、私が最近講義などで耳にした、新しい情報システムを作る際に有用な方法をご紹介します。

発想

なにかものを作る時、まずは「何を作るか」のアイデアを考える必要があります。アイデア発想法は複数提案されており、自分にあった方法を見つけてみると良いでしょう。(かくいう私は、今に至るまでアイデア発想が苦手です。)

最初に紹介する方法は、ジェームス・ヤング氏が著した "A Technique for Producing Ideas [1]" に書かれているものです。橋山研で輪読した本の一つです。

本書で紹介されている方法は、5段階に分けられます。

  1. 材料集め
  2. 材料の消化(材料について、ずっと考え続ける)
  3. 一旦、思考から離れる
  4. 突然ひらめく
  5. 実現する

ざっくりいうと、

(1) 生み出す対象について、一般則から個別の例まであらゆる情報を集め、(2)情報同士を組み合わせ、分類するなど、十分な思考をすると、(3)ある時(音楽を聴いたり、寝ていたりする間に)予期しないタイミングで(4)突然ひらめくので、(5)人と議論したり、正確な条件を検討したりして形にする

ことで、アイデアを実現するものです。筆者いわく「フォードの大量生産のように」この方法を遵守することでアイデアが量産できるそうですが、材料集めや、十分な思考等、実際にやってみるには途方もない情熱と根気が必要そうです。

次に紹介するのは、ひらめきではなく、論理的に必要なものを導く方法です。

「UXデザイン」は、ものづくりによってユーザにどのような体験をもたらすかを設計することを意味します。ジェシー・ジェームズ・ギャレット氏いわく、次の5段階に分かれます。

  1. 戦略
  2. 要件
  3. 構造
  4. 骨格
  5. 表層

この中で「戦略」や「要件」は、ユーザ調査、ビジネス目標などから、ユーザの需要・情報システムの目的を検討することであり、アイデアの発想にあたると考えて良いでしょう。

UXデザインにおいて、これらの段階でよく使われている手法が、「ペルソナ」や「カスタマージャーニーマップ」を作成する手法です。

「ペルソナ」は、作ろうとしているシステムを使うユーザを一人想定し、名前、性別、年齢、趣味、行動のクセなど、あらゆる特徴を詳細に描いたものです。


ペルソナの例 [1]

「カスタマージャーニーマップ」は、ペルソナがある行動をする時(外出する、食事する等)、時系列順に何をし、何を考え、どんな気持ちになっているかを考え、図で示したものです。

情報システムによってどのような支援をすべきか、この図を描いているうちに見えてくるかもしれません。


カスタマージャーニーマップの例 [2]

なお、当然ではありますが、これらの手法を実践する前に、ユーザへのインタビューやフィールドワークによって、ユーザを知ることも重要です。

プロトタイピング

情報システムのアイデアが思いついたら、次はどのような要件・インタフェースを持つ情報システムとするか、具体化するとよいでしょう。

先述したUXデザインでの残りの段階で使われるのが、「ストーリーボード」、「ペーパープロトタイピング」、「アクティングアウト」、「オズの魔法使い」といった手法です。

「ストーリーボード」は、システムを使う様子を、イラストで時系列順に説明するものです。アニメで言う絵コンテに相当するものです。この図を描くことで、どのようなシステムとすればよいかが見えてくるかと思います。

「ペーパープロトタイピング」は、システムのユーザインタフェースを紙に描いてみるものです。ストーリーボードで明らかにした時系列順のユーザ体験で、実際にどのようなユーザインタフェースをもたせるか、簡易に検討できます。

「アクティングアウト」は、システムを使う様子を、小道具や印刷物などを使って寸劇のように開発者自身が演じてみるものです。ユーザ体験が更に具体的になるため、ここで気づく課題もあるかと思います。

「オズの魔法使い」は、システムのユーザインタフェースのみ作り、ユーザの入力に応じて、裏で開発者が次にユーザに提示すべき情報を作るものです。ユーザにとっては、完成したシステムを使っている際に近い体験が得られるため、ここまで考えて形にしてきたアイデアを検証・比較検討する際に使える手法と言えます。

設計・開発

以上の通り、要件が定まれば、残るのは技術的な課題です。様々なデザインパターンに則ってシステムのコンポーネントを考え、設計書を作ってからプログラムに落としていくのがよく取られてきた手法ですが、スモールスタートで設計・開発を何度も繰り返して規模を大きくしていく手法も良いでしょう。

おわりに

新しい情報システムを作る際に有用な手法のうち、アイデア・課題の考え方と、これらを具体化させる方法を述べました。技術的な課題の解決方法は本稿の対象外としますが、電通大(など)で多くの専門科目を履修している皆様なら、きっと解決できるのではないかと考えています。

出典

[1] James Webb Young, "A Technique for Producing Ideas", McGraw-Hill, 2001. 初版は1965年発行です.

[2] 吉武良治, 柴田英喜, "特集 人間中心設計 Human Centered Design", 情報処理, Vol.54, No.1, 2013.

[3] 三澤直加 尾形慎哉 吉橋昭夫, "サービスデザインにおける顧客経験の記述方法", 日本デザイン学会 デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD 2013.

文責 M1 小林

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