はじめまして、B4の永井です。
今回は、私が研究テーマにしようと模索している「性格分析」の分野から、MBTI(俗称: 16タイプ診断)を取り上げて語ろうと思います。
さて、皆さんは誰かと会話したり行動を共にしたりして、
などといったように、すれ違いの原因が分からず困ったことはありませんか?
きっと誰しも人生に一度はこのような経験をしたことがあると思います。
こういった不和の原因として、真っ先に思い浮かぶのは性格の不一致ではないでしょうか。
「性格」という抽象的なものの異なりを言語化し、分類可能にする試みの一つとして、近年世界的に普及し始めた「MBTI」があります。
Web上では「16タイプ診断」などといった名称で親しまれていますね。
今回は、この「MBTI」の観点から、タイプの違いとそこから生じる不和について考えていこうと思います。
MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)は、母キャサリン・ブリッグスとその娘イザベル・マイヤーズによって開発された、質問紙法^1による性格検査です。
その理論は、心理学者のユングが提唱した「タイプ論」に基づいています。
ユングは著書『タイプ論』において、人の心は対極をなすもので構成されているとしました。
そして、その対極をなすものは、以下の3指標であるとしました。
指標 | 対極をなすもの |
---|---|
エネルギーの源と方向 | 外向(Extraversion) ↔︎ 内向(Introversion) |
知覚機能 | 感覚(Sensing) ↔︎ 直感(INtuition) |
判断機能 | 思考(Thinking) ↔︎ 感情(Feeling) |
(表の指標が具体的に何を表しているかは、後ほど詳しく紹介します。)
ユングは、
人はこれらの両極を状況によって使い分けていて、
人それぞれに両極の使いやすさの優劣が異なるために、
多様な性格が生まれると考えました。
この考え方は、よく「心の利き手」という例えで表されます。
皆さんの利き手は右手でしょうか?左手でしょうか?
どちらにせよ、使いやすい方の手はそうでない手に比べて、自分の思い通りに器用に動かせて、急な状況でとっさに動きますよね。
これと同様なことが、心の極についても言えます。
使いやすい方の極を使って物事を処理している時、その人は「自分の感じたままに行動できている」と感じ、心地よさを感じます。
逆に、使いにくい方の極を使うことを強いられると、思い通りに対処できなかったり、精神的疲労を感じます。
そして、ユングの「タイプ論」を考えるにあたって覚えておきたいのが、
ということです。
人は皆、対をなす極それぞれに得意不得意があって、使いやすい方を優先的に使う傾向があります。
しかし、使いにくい方の極が一切使われないということはなく、むしろ一方の極しか使わないでいると、心のバランスを崩し、不健全な状態になるとユングは説きます。
さて、ユングの「タイプ論」の基本的な考え方を紹介し終えたところで、本題であるMBTIについても説明していこうと思います。
「タイプ論」に目を付けたブリッグス・マイヤーズ親子は、この理論を実用的な性格診断として応用するために、新たに4つ目の指標を付け加えました。
指標 | 対極をなすもの |
---|---|
エネルギーの源と方向 | 外向(Extraversion) ↔︎ 内向(Introversion) |
知覚機能 | 感覚(Sensing) ↔︎ 直感(INtuition) |
判断機能 | 思考(Thinking) ↔︎ 感情(Feeling) |
外界に対して用いる機能 (New!) |
判断的態度(Judging) ↔︎ 知覚的態度(Perceiving) |
タイプ分類の際には、これら4つの指標について、それぞれどちらの極の方が使いやすいかを考えます。
そして、そのアルファベットの頭文字を横に並べたものが、あなたのタイプとなります。
例えば、外向・直感・感情・判断的態度を指向する人はENFJと表されます。
このように、4つの指標の組み合わせから16通りのタイプに分類し、人の心の習慣パターン、つまり性格を明らかにするのがMBTIです。
続いて、各指標についての詳細と、その違いによって起こりがちな不和について見ていきましょう。
皆さんは「外向」「内向」という単語を目にしたとき、「明るく社交的で人当たりの良い人」「落ち着きがあり内気で引っ込み思案な人」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、MBTIで用いられる「外向」「内向」が意味するものは、世間一般に浸透しているこのようなイメージとは少し異なります。
MBTIにおいて、「外向(E)-内向(I)」の二極が表すものは、「外界と内界それぞれに対して、どのように関わり合うか」です。
具体的には、
と説明できます。
例えば、
このような時に活力がみなぎるのであれば、その人は外向を指向している(E)と言えます。
反対に、
このような時に活力がみなぎるのであれば、その人は内向を指向している(I)と言えます。
これを読んでいるあなたは、EとI、どっちの方が自分らしいと感じましたか?
とある会社にて、上司が一人の部下を呼び止め、相談を持ちかけました。
上司は、「会社の現状について、君の個人的な考えを聞きたい。どんな些細な希望や不満でも良い。気楽に答えてくれ。」と部下に訊ねました。
すると部下は、「そうですね……」と口ごもったのち、数秒間考え込むようなそぶりをしました。
それを見た上司は、(こいつは何か隠し事をしているのではないか?)と怪訝に思いました。
しばしの沈黙の後、部下は自分が考える会社の問題点について、誠実な口調で話し始めました。
しかし上司は、部下が本音を語っていないような、重大な隠し事をしているような気がして、部下の言うことを信じることが出来ませんでした。
結局、このようなやりとりが繰り返され、上司はその部下に対する不信感を拭いきれず、部下をクビにしてしまいました。
この話は、実際に起きた事例として参考図書[1]に紹介されていたものです。
あなたは、この話を読んで、なぜこのようなすれ違いが起きてしまったのか不思議に思いましたか?
不思議に思ったのは部下に対してでしょうか?それとも上司に対して?
なぜ部下は、「気楽でいい」と言われたのに、しばらく考え込んだのでしょうか?
なぜ上司は、考え込んだ部下を見て、不信感を感じたのでしょうか?
その答えは、二人の「外向-内向」の指向の違いが関係しています。
結論から言うと、上司はEタイプで、部下はIタイプでした。
Eタイプ、つまり外向を指向する人は、考えていることを都度声に出しながら、思考をまとめていく傾向があります。
これは、Eタイプの人にとって、自分の内にあるだけの思考は意味をなさず、外に出して初めて価値あるものと感じるためです。
反対に、Iタイプ、つまり内向を指向する人は、自分の中で思考がまとまってから、初めて考えを口に出す傾向があります。
これは、Iタイプの人にとって、自分の外にあるだけの物事は意味をなさず、自分の世界に取り込んで、咀嚼して自分のものにして初めて価値あるものと感じるためです。
以上のことを踏まえると、冒頭の事例がなぜ起きたのか、少し見えてくるのではないでしょうか。
Iタイプである部下は、何か隠し事があって黙り込んだのではありません。
ただ単に、自分の考えをまとめるための時間が欲しくて、少しの間、内なる世界に潜っていただけです。
しかし、Eタイプである上司にとって、思考は声に出しながら行うものでした。
そして、そんな上司にとって、「黙って考えなければいけない状況」は、人に聞かせたくないことを考えるときや、相手に言ってはいけないことを精査するとき以外にありませんでした。
よって上司は、あからさまに考え込んでいるのに、考えを口にしようとしない部下を見て、クビに値するほどの不信感を感じてしまったのです。
このような、性格の違いから起こる不必要な誤解は、ここで紹介した事例以外にもたくさんあります。
しかし、全ての指標について具体的な事例を語っていると長くなってしまうので、以降は指標の概要と、対となるタイプがお互いに抱きがちな不満や誤解に絞って解説します。
知覚機能は、「物事を知覚する際に、どのような情報に惹きつけられるか」を表す指標です。
具体的には、
と説明できます。
自分がどちらのタイプか判別したいときは、以下の文章を見て、どちらの方が自分らしいかを考えてみましょう。
(例1)複数のデータやグラフを渡されたとき
個々のデータや、グラフに示された関係などがまず気になる → 感覚(S)タイプ
一見関係の無さそうな、異なるデータの関連性がまず気になる → 直感(N)タイプ
(例2)映画を観たとき
色彩やBGM、登場人物の動きやセリフなど、実際にあったシーンに一番魅力を感じる → 感覚(S)タイプ
テーマや演出の意図、登場人物が何を考えて動いていたかなど、裏に隠された意味に一番魅力を感じる → 直感(N)タイプ
Sタイプの人は、Nタイプの人に対して、「現実的でないことばかりを考える夢想家」という悪印象を持ちがちです。
反対に、Nタイプの人は、Sタイプの人に対して、「当たり前のことしか考えないつまらない人間」という悪印象を抱く傾向があるでしょう。
しかし、どちらも誤解です。
どちらのタイプも、不得意なりに自分とは逆のタイプの考え方ができます。
ただ、自分がそこまで魅力を感じない情報だから、あまり話題にしないだけなのです。
判断機能は、「物事を判断する際に、どのような観点から結論を導くか」を表す指標です。
具体的には、
と説明できます。
例えば、大切な友人が、「最近、容姿の悪さを他人から指摘された。自分はブサイクなのか?」と相談しに来たとしましょう。
このとき、あなたが取る行動は次のどちらの方が近いでしょうか?
「確かにあなたの容姿は悪いが、磨けば光る素質があるのだから、身なりを整えるよう努力すれば良い。」と、建設的なアドバイスをする。
「それは辛かったね。自分は全然気にしないけど、あなたがどうしても気になるのなら、精一杯力になるよ。」と、相手の気持ちに寄り添う。
どちらも極端な回答ですが、前者に近いならあなたは思考(T)タイプ、後者に近いならあなたは感情(F)タイプと言えるでしょう。
Tタイプの人は、Fタイプの人に対して「感情でしか物事を語れない、非合理的な人」という悪印象を抱きがちです。
また、Fタイプの人は、Tタイプの人に対して「正論パンチで人を傷つける、デリカシーの無い人」という悪印象を持ちがちです。
これらもやはり誤解です。
拙いなりに、Tタイプの人も感情で考えることはありますし、Fタイプの人も理論立てて考えることはあります。
Tタイプは相手の問題を解決しようと、Fタイプは相手の心の傷を癒そうと、それぞれの方法で相手のためになろうとしているだけなのです。
外界への態度は、前述の知覚機能と判断機能に深く関わる指標です。
この指標は、「外界の物事に対して、知覚と判断のどちらを確実に行いたいか」を表しています。
具体的には、
と説明できます。
例えば、旅行に行くときのことを考えてみてください。
このとき、
事前に行く場所や巡る順番、所要時間などを綿密に計画してから旅行に臨む → 判断的態度(J)タイプ
地域だけは大まかに決めて、その時行きたい場所に行き当たりばったりで向かう → 知覚的態度(P)タイプ
と言えます。
Jタイプは、決められた計画よりもその時々の状況を優先するPタイプを見て、「計画を乱さないで欲しい」と憤ります。
反対に、Pタイプは、現状況におけるベストを無視して計画に固執するJタイプを見て、「行動を制限しないで欲しい」と不快に感じます。
真逆の2タイプですが、プロジェクトにおいては両者の意見の擦り合わせが重要になります。
知覚的態度だけでは、クオリティばかりを気にして、〆切に間に合わせる気持ちが無くなってしまいます。
判断的態度だけでは、〆切は絶対に間に合わせようとしますが、代わりに製品の質の向上がおろそかになってしまいます。
両者納得のいく、バランスの取れた折衷案を出すことが、製品の〆切を守り、クオリティを担保するために重要です。
最初にも述べた通り、人々が健全に生きていくためには、心の両極はどちらも平等に重要で、不可欠なものです。
しかし、私たちが人である以上、得手不得手は必ずあります。
全てを自分一人で対処していると、どちらかの極のみに偏ってしまう可能性があります。
そんな時は、自分以外の人たちと、足りない所を補い合える関係を築けるのが理想だと私は思います。
これまでタイプの違いによって生じる対立ばかりを紹介してきましたが、タイプの異なる人というのはすなわち、自分に足りない能力を持っている人です。
今回紹介した事例のように、自分の先入観や思い違いのせいで、そのような人と疎遠になってしまうのは、勿体無いですよね。
このブログをきっかけに、自分と気が合わない人は、どこが自分と異なるのか少し深く考えてみて、思い違いの可能性を探ってみるのはいかがでしょうか。
[1] Pearman, Roger R. & Albritton, Sarah C.(著) 園田, 由紀(訳). MBTIへの招待 : C.G. ユングの「タイプ論」の応用と展開. 2002. 金子書房.
[2] Myers, Isabel Briggs.(著) Kirby, Linda K. & Myers, Katharine D.(改訂) 園田 由紀(訳). MBTIタイプ入門:Myers‐Briggs Type Indicator(MBTI)受験結果理解のためのガイド 第5版. 2010. JPP.