議論促進に向けたオンライン情報共有不足可視化システムの提案
会議では参加者ごとに理解度が異なるにもかかわらず、「今さら聞きにくい」といった理由で理解不足が表明されず、認識のズレが放置されがちです。本研究では、内容を教えるのではなく「分からない人がいる」という事実だけを匿名で共有する軽量な支援に着目し、会議資料のページ単位で理解不足を表明できるシステムの設計と評価に取り組んでいます。

この研究のポイント
- 会議資料のページ単位で「このページが分からない」を匿名で表明できるWebシステムを設計・開発する
- 理解不足の提示の仕方を変えた比較実験により、表明が質問や補足につながるかを検証する
背景
会議では、参加者ごとに前提知識や理解度が異なります。それでも、理解できていないことは表明されにくく、認識のズレが放置されたまま議論が進みがちです。評価を恐れて質問を控える傾向は、チームの心理的安全性の研究でも指摘されています1。さらに、分からない人は「分かっていないのは自分だけだ」と思い込みやすく、全員が黙っているために誰も質問しないという状態(多元的無知)が生じます2。
会話は、互いに「相手に伝わった」ことを確かめながら共有基盤(Common Ground)を積み上げていく共同作業です3。しかしオンライン会議では、表情やうなずきといった非言語的な手がかりが得にくく、理解状況の把握がさらに難しくなると指摘されています4。
会議を情報技術で支援する研究の多くは、会議内容そのものを分かりやすく伝えることに取り組んできました。例えば、議論を対話マップとしてリアルタイムに構造化する手法があります5。発表中に聞き手がスライドへフィードバックを送り共有する仕組みも提案されています6。一方で、「理解不足を感じている人がいる」という事実だけを最小限の負担で共有する支援は、十分に検討されていません。
目的
本研究の目的は、会議の参加者が互いの理解不足に気付けるようにする軽量な支援を設計・実装し、それが理解不足の解消と議論への参加に与える影響を明らかにすることです。
具体的には、理解不足の匿名での表明が実際の理解不足を反映するか、またその共有が発表者の補足や聞き手の質問につながるかを検証します。
手法
資料を共有しながら進める会議を対象に、資料のページ単位で「このページが分からない」を匿名で表明できる Web システムを開発しています。システムは React・TypeScript・Firebase で構築し、投票をリアルタイムに集計して発表者に提示します。何が分からないのかを言葉にできない状態でも押せるよう、操作はボタン1つにとどめています。
評価では、表明の提示形式だけを変えた3条件を比較します。
- 投票はできるが、結果を表示しない
- 投票数を発表者に表示する
- 一定数を超えたページだけを強調する
授業で用いられる応答システムでは、匿名で答えられることが参加を促す一方、理解不足が分かってもその場で補足するのは話し手にとって難しいことが報告されています7。また、話し手は自分の説明が伝わった程度を過大に見積もりやすいことも知られています8。これらを踏まえ、評価では次の3点を見ます。
- 投票されたページが、質問や補足によって解消されたか
- 発表者が聞き手の理解状態をどれだけ正しく把握できたか
- 参加者の負担が大きく増えていないか
対象は、研究室の定例ゼミのように継続的に開かれる少人数の会議です。会議の規模が大きいほど発言による参加や包摂性が下がるという報告9も、少人数を対象とする根拠の一つです。
成果
現在、評価実験を実施中です。
2026年度の修士研究として進めている研究です。
参考文献
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A. Edmondson, Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams, Administrative Science Quarterly, 44(2), pp. 350–383 (1999). https://doi.org/10.2307/2666999 ↩
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D. T. Miller and C. McFarland, Pluralistic Ignorance: When Similarity Is Interpreted as Dissimilarity, Journal of Personality and Social Psychology, 53(2), pp. 298–305 (1987). https://doi.org/10.1037/0022-3514.53.2.298 ↩
-
H. H. Clark and S. E. Brennan, Grounding in Communication, in L. B. Resnick, J. M. Levine, and S. D. Teasley (Eds.), Perspectives on Socially Shared Cognition, pp. 127–149, American Psychological Association (1991). https://doi.org/10.1037/10096-006 ↩
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J. N. Bailenson, Nonverbal Overload: A Theoretical Argument for the Causes of Zoom Fatigue, Technology, Mind, and Behavior, 2(1) (2021). https://doi.org/10.1037/tmb0000030 ↩
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X. Chen et al., MeetMap: Real-Time Collaborative Dialogue Mapping with LLMs in Online Meetings, Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction, 9(2) (2025). https://doi.org/10.1145/3711030 ↩
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井上良太, 白松俊, 大囿忠親, 新谷虎松, 発表中の資料へのフィードバックに基づくインタラクティブプレゼンテーションシステムの実現, 情報処理学会論文誌, 56(10), pp. 2011–2021 (2015). https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/records/145556 ↩
-
R. H. Kay and A. LeSage, Examining the Benefits and Challenges of Using Audience Response Systems: A Review of the Literature, Computers & Education, 53(3), pp. 819–827 (2009). https://doi.org/10.1016/j.compedu.2009.05.001 ↩
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B. Keysar and A. S. Henly, Speakers’ Overestimation of Their Effectiveness, Psychological Science, 13(3), pp. 207–212 (2002). https://doi.org/10.1111/1467-9280.00439 ↩
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R. Cutler et al., Meeting Effectiveness and Inclusiveness in Remote Collaboration, Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction, 5(CSCW1), Article 173 (2021). https://doi.org/10.1145/3449247 ↩