「世の中には2種類の人間がいる、できる人間と、批判する人間だ」
レーガン大統領の言葉です。含蓄がありますね。
「全ての人間は2種類に分けられる。スウィングする者とスウィングしない者だ」
映画「スウィングガールズ」の有名なセリフです。ユニークですね。
どうやら私たち人間には様々な分け方があるようですが、 行動経済学での個人の意思決定において、 人は「洗練された者(ソフィスティケート)」と「単純な者(ナイーブ)」に分けられます。 前者が戦略的な意思決定をする者、後者が戦略的でない意思決定をする者と言い換えることもできます。
今回は、これら2種類の意思決定者について学業での例を説明した上で、戦略的な意思決定のために重要となる現在バイアスという考え方について書いていきます。
具体的なシチュエーションを考えてみましょう。
翌日にゼミを控えた学生、ゼミまでに資料作りを終わらせなければいけない。 眠くなってきた。さて、今やろうか、寝て起きてから朝やろうか。
「今の自分」が翌朝起きて資料を作ることを計画したとしても、「翌朝の自分」がそれを実行するとは限らないことを知っています。 つまり、「今の自分」と「将来の自分」を別々のプレーヤーとして考え、「将来の自分」がどのように行動するのかを予測した上で、現時点での意思決定を行うことができます。このような人を行動経済学では「洗練された者(ソフィスティケート)」と呼びます。
「翌朝の自分」が計画通りの行動をとるだろうと誤って信じてしまいます。 「今の自分」は翌朝の自分がしっかり起きて資料作りをするだろうと考え寝てしまい、資料作成を先延ばしにしますが、「翌朝の自分」も同じように、あと5分寝たら、あと30分ゲームをしたらという風に先延ばしをしてしまうため、直前に不完全な資料を作ることになってしまったり、はたまた資料が間に合わずゼミへの参加すらも先延ばしにする事態に陥ってしまうかもしれません。このような人を行動経済学では「単純な者(ナイーブ)」と呼びます。
このように「今の自分」と「将来の自分」の意思決定にはギャップがあり、「今」から「将来の自分の意思決定」を予測できるか否かが、戦略的な意思決定者となれるか否かの分かれ道となります。
この予測において重要になるのが「現在バイアス」という考え方です。 先のゼミの例では「今」と「将来」における意思決定者にとっての「資料作りという行動の価値」が変化したと考えることができます。
「資料作り」という行動の価値が「今」の時点で本来10だとします。「翌朝」の時点での価値が8、直前での価値が5と仮定すると、客観的に意思決定ができれば(今, 翌朝, 直前)の3期間で(10, 8, 5)となるので、「今」資料作りを実行するはずです。
しかし、一般的に人は現時点の行動の価値を50%割り引いて考えると言われ、これは「現在バイアス」と呼ばれます。したがって、「今」の行動の価値は半分の10÷2=5となります。
すると(今, 翌朝, 直前)の3期間で(5, 8, 5)となるので、「翌朝」の資料作りの価値を高く感じ、眠りにつくことになります。これが「単純な者」の意思決定です。
ここで、「翌朝の行動」を考えてみます。「今」は過ぎているので空欄として、残る(, 翌朝, 直前)の2期間で(, 8, 5)ですが、現在バイアスがかかるので8÷2=4となり(, 4, 5)が意思決定者が翌朝に感じる行動の価値になります。よってここでも行動は先延ばしされることになります。
洗練された意思決定者は、ここまでを予測するため、「今」の時点で(今, 翌朝, 直前)の3期間で(5, 8, 5)と感じたとしても、将来の各時点で現在バイアスが働くことを知っているため、「明日の朝やろうとしてもどうせ眠いし、やらないだろうから今のうちに終わらせてしまおう」と考え、夜更かしをしてでも資料作りを終わらせることが出来るでしょう。
行動経済学における意思決定者のパターンはその戦略的度合いによって「洗練された者」と「単純な者」に分けられ、 そして、現在バイアスが各時点の意思決定で働くことを見越した上で、「将来の自分」を予測することで、「洗練された」戦略的な意思決定ができることを述べました。
“できる”皆様の「意思決定」の一助になれれば幸いです。
(※ブログ内容について、厳密には双曲割引関数を持ち、コミットメントが不可能な場合についての意思決定者のパターンについて解説しています。伝わりやすさを優先したため、前提条件の厳密性は担保されていません)
参考文献:
文責:橋山研究室 池田欣生