ノスタルジアとは何か

column M1 20後藤

こんにちは。M1の後藤です。

皆さんは、「ノスタルジア」「ノスタルジック」「ノスタルジー」といった言葉を聞いたことがありますでしょうか。どれも指す意味は同じなのですが、これらは私の研究テーマでもあります。そこで今回は「ノスタルジア」の定義と分類の説明をしたいと思います。

ノスタルジアとは

ノスタルジア(nostalgia)は、過ぎ去った過去に対する、ほろ苦い(bittersweet)複合的な感情です。最も多く用いられる定義の一つが、"a sentimental longing for one's past"です[1]。ノスタルジアは、もともとは傭兵のホームシック的状態を指す病名であったとされています。ノスタルジア(nostalgia)の語源が、ギリシャ語の「nostos(帰還)」+「algos(苦痛)」であることからも、元々の意味が推測できますね。しかし、現在では病気という意味からは離れて使用されていることが多いようです。

日本語においてノスタルジアの類語とされる「懐かしさ」は、「ノスタルジア」に比べ、ポジティブな要素が強く、ネガティブな要素が弱いとされています[2][3]。「懐かしい」という形容詞が「慣れ親しむ」という意味の動詞「懐く」が形容詞化してできたことを考えると、確かにネガティブな要素が弱いことは想像に難くありません。「ノスタルジア」と「懐かしさ」を同様に扱っている研究もありますが、意味合いは厳密には違っている可能性があります。

長峰らは、日本人に対してノスタルジアを説明する際に「感傷を伴う懐かしさ」という概念を用いることで、ノスタルジアの機能的な特徴が再現されることを示しました[4]。つまり、日本人に対して「感傷を伴う懐かしさ」という説明を用いることでノスタルジアにより近い感情を喚起できることを明らかにしました。このことから、日本人に対するノスタルジアの説明としては、「感傷を伴う懐かしさ」が適切と考えられます。

ノスタルジアの分類

消費者行動や広告研究の流れの中で、Sternは、ノスタルジアは個人的ノスタルジア(personal nostalgia)と歴史的ノスタルジア(historical nostalgia)に分けられるとしました[5]。歴史とともにノスタルジアの分類はいくつか提唱されましたが、今回はSternの分類を用いることにします。

個人的ノスタルジア

個人的ノスタルジアは個人的な出来事の記憶に基づくノスタルジアを指し、個々人のエピソード記憶を基盤とすると考えられています。つまり、個人的なエピソードを思い出して感じられるノスタルジアが個人的ノスタルジアです。個人的ノスタルジアが喚起されるものは、例えば以下のようなものがあります。

  • 子供の頃よく遊んだおもちゃ
  • 通学するときによく聴いていた音楽
  • 楽しかった文化祭のクラス企画
  • 友達と作った秘密基地

一般的に日本人が「懐かしい」と表現するのは、こちらの個人的ノスタルジアが多いのではないのでしょうか。


筆者が個人的ノスタルジアを感じるムシキングのカード
画像出典: ムシキング公式HP

歴史的ノスタルジア

歴史的ノスタルジアは自分自身が体験していないにも関わらず生じるノスタルジアを指し、意味記憶を基盤とすると考えられています。つまり、なんとなく「ノスタルジック」というのが歴史的ノスタルジアです。歴史的ノスタルジアが喚起されるものは、例えば以下のようなものがあります。

  • 田んぼの風景
  • さびれた駅舎
  • 昭和の街並み
  • フィルムカメラで撮影した写真

ただし、これらは実際に体験していないことが前提となります(実際に体験したノスタルジアは個人的ノスタルジアになります)。日本人が「ノスタルジック」と表現するのは、こちらの歴史的ノスタルジアが多いのではないでしょうか。


筆者が歴史的ノスタルジアを感じる路地裏の風景
画像出典: PIKUTASO

おわりに

今回は「ノスタルジア」の定義と分類の説明をしました。情報学の研究室なのに、完全に心理学のお話になってしまいましたね。次回は個人的ノスタルジアに焦点を当てた記事を書こうかなと考えています。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献

[1] Constantine Sedikides, Tim Wildschut, Jamie Arndt, and Clay Routledge. Nostalgia: Past, present, and future. Current directions in psychological science, Vol. 17,No. 5, pp. 304–307, 2008.

[2] Erica G Hepper, Tim Wildschut, Constantine Sedikides, Timothy D Ritchie, Yiu-Fai Yung, Nina Hansen, Georgios Abakoumkin, Gizem Arikan, Sylwia Z Cisek,Didier B Demassosso, et al. Pancultural nostalgia: Prototypical conceptions acrosscultures.Emotion, Vol. 14, No. 4, p. 733, 2014.

[3]菅原大地, 長峯聖人, 宮川裕基, 杉江征. 混合感情の文化比較―認知的評価理論の観点から―. 感情心理学研究, Vol. 25, No. Supplement, pp. os11–os11, 2017.

[4] 長峯聖人, 外山美樹. 本邦におけるノスタルジアの機能的特徴―感傷を伴う懐かしさという観点から―. 筑波大学心理学研究, No. 56, pp. 21–26, 2018.

[5] Barbara B Stern. Historical and personal nostalgia in advertising text: The fin desiecle effect. Journal of Advertising, Vol. 21, No. 4, pp. 11–22, 1992.

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