M2 の荻野です。僕は運動が好きで M2 になった今でも陸上競技部で選手として活動をしています。
そんな運動が好きな僕が素朴に気になっていることを調べてみました。
皆さんは「筋肉バカ」という単語を知っていますか?
筋肉バカとはムキムキなだけが取り柄のキャラクターなどを指す言葉である。 要するに筋肉はあるが頭が悪い(=バカ)という事を指す言葉である。 (ピクシブ百科事典より引用)
「バカ」と入っている時点で揶揄されていることは明白なわけですが、こういった単語があるせいで「運動ばっかりやっている人は頭が悪いに違いない」という考えはかなり一般化しているのではないかと思っています。
しかし、僕の所属している電気通信大学陸上競技部の部員をみていると、その相関は明らかに間違っているのではないかと思うようになりました。
例えば、僕の 2 つ上の学年の先輩は知能機械工学科の学科主席であったと同時に、部活でもすばらしい成績をおさめて全日本インカレに出場していました。
彼の部活における成績は大学の受賞・表彰の記事にも度々掲載されています。
彼とのツーショット
彼一人が外れ値なだけだろうと思うかもしれませんが、I 類で 2 番目の成績をもつ後輩がいたり、留年をする部員は 0 人だったりと平均的には優秀な人が多い印象があります。
他大学を見ると、東京工業大学の陸上競技部は 50 人以上の部員をもち関東インカレの常連だったり、東京大学の陸上部からは2020 年に箱根駅伝の関東学生連合チームとして出場する学生もいました。
陸上競技だけをみてもこれだけ文武両道を成し遂げている人がいるのに、本当に運動ばかりやっている人は頭が悪いのでしょうか?
つまり、運動と学習能力に負の相関はあるのでしょうか? 近年の研究では、その言説は真逆であることが示されています。
習慣的運動が認知機能に与える効果を調査した研究[1]では、習慣的運動が子供の認知機能を改善させることに加え、もともと認知機能が低い子供ほど認知機能の改善度が大きくなることが明らかになりました。
また、もともと認知機能が高い子供でも、運動時間が増加することによって認知機能が低下することはないことが示されました。
別の研究[2]では、メタ分析によって「これまでの研究からどのような運動が認知機能を改善させると言えるのか」を明らかにしました。
この研究によると、運動の種類にかかわらず、習慣的な運動は認知機能を改善させるが、その効果は有酸素トレーニングや筋力トレーニングよりも、身体や物のコントロールが求められる神経系のトレーニングで大きくなることがわかりました。
また、運動が認知機能に与えるポジティブな効果は、年齢にかかわらず認められています。
上記の研究や他の数々の研究をみても、個人差はあるものの運動は認知機能に正の相関、つまり運動を習慣にしている人ほど認知機能は高いということがわかります。
しかもそれは子供に限った話ではなく、どんな年齢であったとしても運動は認知に対して効果を発揮します。
頭のよくなる薬があればいいなと思っている皆さん、外に出て運動をするだけで無料で同じ効果が得られますよ!
・・・
といってもそう簡単にできないのが人間というものです。
かくいう僕も、部活という名目がなければここまで頻繁に(週 5~6 で)運動していなかったと思いますし、去年の緊急事態宣言下では運動しない状態にだんだんと慣れてしまっていた自分がいました。
話はそれますが、最近攻殻機動隊というアニメをみていて心を穿つようなセリフに出会いました。
「水は低きに流れ、人の心もまた低きに流れる。 (中略) 最も俺をがっかりさせたのは人々の無責任さだった。 自分では何を生み出すこともなく、何も理解していないのに、自分にとって都合のいい情報を見つけるといち早くそれを取り込み踊らされてしまう集団」
目の前の苦難や面倒ごとから逃れるために、人の心は低きに流れるようになっています。
上記のセリフは難民による革命を起こそうとするとある登場人物の一言であり、運動とはまったく関係のないセリフではありますが、運動においても全く同じことが言えるなぁと思いました。(攻殻機動隊とても面白いのでみてください)
運動のように短期的に効果がでるわけではなく、苦しみを伴うようなことに対しては人間は逃げがちです。
少し俗っぽくなりますが、個人的に「低きに流れてしまう原因」とその対策を考えてみました。
あなたは「明日から運動するぞ!」と決めた時、一人で運動しようとしていませんか?
それ、間違いなく長続きしません。
筑波大学の研究[3]では、中高年者を対象に実施したアンケートを分析し、日常生活動作(食事や入浴など)の能力を保つのに効果的なのは「運動・スポーツ」で、男女とも他者と実施する場合で得られやすいこともわかりました。
運動・スポーツを他者と実施している場合は、男性で 32%, 女性で 26%リスクが低下し、一人で実施している場合よりも効果が高かったそうです。
もし周りに一緒に運動できる人がいない場合は、習慣化を手助けするスマホのアプリを利用するという手もあるでしょう。
ダイエットや勉強などの習慣化を一緒にチャレンジすることができるアプリ「みんチャレ」などがおすすめです。
あなたは「明日から運動するぞ!」と決めた時、漠然と「とりあえず走っておこう」と考えたり、「今週で 100km 走るぞ!」と無謀な計画を立てたりしていませんか?
それ、間違いなく長続きしません。
順天堂大学の研究[4]では、運動の継続意欲に影響を及ぼす心理要因として「運動有能感」をあげています。
運動有能感とは、「やればできる!」「やった!」という肯定的な感覚のことです。
無謀な計画を立てた場合は運動有能感を得ることができず、また計画を立てていない場合も同様です。
「これくらいはできそうかな」と思う半分、いや 3 割くらいのハードルから目標を立てるとよいでしょう。
今回は「筋肉バカ」という単語に対する疑問からはじめてみましたが、この単語は的を得ていないということ、運動は認知に良い影響を与えること、運動の継続ができない理由について紹介してみました。
運動はたしかにきつい、苦しいものですが、走り終わったあと・目標が達成できた時には麻薬のような(麻薬やったことないけど)多幸感があります。
今回の記事で少しでも運動に興味が沸いていたら幸いです。
あ、ちなみに僕も部活の成績で大学の受賞・表彰ページに載ったことがあります。(自慢)
[1] Effects of Physical Activity on Executive Functions in Children
[2] 過去 30 年間の知見から認知機能を改善させる運動を解明 ~運動の種類・時間、性別によって運動が認知機能に与える効果は変わる~
[4] 健康運動の継続意欲に及ぼす心的要因の検討 -ジョギングとエアロビックダンスの比較―
文責 M2 荻野