「続ける」ことの難しさとその支援手法

column M2

M2 の荻野です。運動が及ぼす認知的な好影響を研究している私ですが、ゼミ生から聞く運動に対するネガティブな意見として一番多いのは「継続することが難しい」ことのようです。

運動以外にも、勉強、研究、日記、禁煙など「何かを習慣にする」ということは誰しもにとってとても難しいことです。

今回の記事では、行動科学の分野から学べる習慣化の方法について紹介します。

行動科学とは

行動科学とは、人間の行動を科学的に研究し、その法則性を解明しようとする学問。

心理学、社会学、人類学、精神医学などがこれに含まれる。包含する学問分野は社会科学と重なる部分が大きいが、社会科学が社会システムの構造レベルの分析が中心であるのに対し、行動科学では社会内の個体間コミュニケーションや意思決定メカニズムなどに焦点を当てる(例:心理学、社会神経科学)。

Wikipediaより

たとえばあなたがダイエットをしようと決心したとき、その決心はすでに大きな意思決定をしていると言えます。

しかし、翌日になって「今日は雨だしやめておこう」「仕事で忙しいしやめておこう」こういった小さな意思決定が積み重なり、結局は習慣化できずに終わってしまうということが多いのではないでしょうか。

習慣化というのは仕組み化しなければ達成することは難しく、イギリスのロンドン大学が行った研究[1]では、96人を対象に新しく始める物事が「習慣化されるまでの期間」を調査しました。

結果は、習慣化がほぼ完全にできるまでには18日〜254日かかることがわかり、人によってかなりのばらつきがあること・非常に長い時間がかかる可能性があることがわかりました。

「何かを続けることができない」というのは自分だけの問題ではなく、基本的には全人類にとって難しい問題と言えます。

では、三日坊主にならない人はどのような工夫をしているのでしょうか?

行動には二つのパターンがある

あなたが継続したいと思っている行動には、二つのパターンがあります。

第一に英会話学習や筋力トレーニングを継続させたい、というような「不足行動を増やす」というパターン。

第二に禁煙やダイエットで過食を防ぐ、などの「過剰行動を減らす」というパターン。

いかなる行動であろうと、継続するパターンは、このどちらかです。

石田 淳(2006).『「続ける」技術』 フォレスト出版 p.44-45

まずあなたが習慣化したいことはどちらのパターンに属するものなのか、改めて考えてみましょう。

不足行動を増やせない原因

不足行動を増やすということは、今過ごしている普段の生活に新しいことを取り入れるということになります。

新しいことを始めるということは、その分の時間を確保するために24時間の中からその他の時間を犠牲にしなければなりません。

仕事や学校に通っている人は仕事の時間は変えることはできません(もちろん、残業を短くするなど工夫する方法はありますが)。

また、睡眠を削って新しいことをする、ということも一時的にはできますが、常に睡眠を削ることはできません。

つまり、新しいことを始めるには今までにやってきた他の習慣をやめなければならない、ということになります。

やめるべき他の習慣とは、例えば「テレビやYoutubeを無駄に長く見る」とか、「SNSを永遠に更新し続ける」などでしょうか。

やらなくてもいいけどついやってしまうそういった行動というのは、すぐできてすぐ楽しいことが享受できるからです。

不足行動を増やせない原因は、不足行動を行うよりもその行動をすることで得られなくなる快楽の方が強いからであるとわかります。

過剰行動を減らせない原因

過剰行動とは、あなたが減らそうとしている・あるいはやめようとしている行動のことをいいます。

例えば、「毎日コンビニでお菓子を買ってしまうのをやめる」「タバコやギャンブルをやめる」などです。

こういった行動は、先ほどの不足行動の話に置き換えると「すぐできてすぐ楽しいことを享受できる行動」になります。

つまり、「自分で格別な努力をしなくても、簡単に継続できてしまう」ことが過剰行動を減らせない原因になります。

仕組み化して習慣化しよう

では、そういった不足行動を増やす・過剰行動を減らすような取り組みにはどういったものがあるのでしょうか?

Susan Weinschenk[2] は、習慣を作るとき・変更する時に現在わかっていることとして以下の4つを挙げています。

  1. 小さくて具体的な行動にする

自分の前回の記事でも少し触れましたが、抽象的な目標をより具体的で小さな目標に変えると習慣化できることが明らかになっています。

運動習慣を身につけるために「週3回運動する」は具体的ではあるものの、より具体化することができます。

例えば、「仕事帰りに毎日散歩に行く」の方が、小さくかつ具体的であり達成できそうな目標に思えませんか?

  1. 行動を簡単にする

小さくて具体的な行動を決めることができれば、その行動を簡単に実行できるようにします。

運動習慣を例にすると、ランニングウエアやシューズを玄関先や職場のロッカーにおいておき、すぐに目につくようにします。

  1. 身体の動きを伴う行動を入れる

あまり物理的ではない習慣(例えば、毎日研究テーマを10個考える、など)を身につけようと思っている場合、その習慣に体の動きを入れることが習慣化の手助けをしてくれます。

大きな運動ではなく、紙とペンをアイデア用に用意しておき、かならず研究テーマを考えるときはその紙とペンを使う、などをすることで習慣化がしやすくなるそうです。

  1. 視覚・聴覚刺激を伴うようにする

スマートフォンを使うことが習慣になっているのは、新着メッセージがくると画面がつき、バイブレーションや音などで使用者を惹きつけてくるからです。

こういった視覚・聴覚・触覚を使った手がかりは習慣化をするときにも応用することができるとのことです。

まとめ

習慣化の難しさについては誰もが理解している難しい問題だと思いますが、だからこそいろいろな方法で習慣化するために研究が行われています。

個人的には、習慣化するために体の動きを取り入れると良いというのはとても興味深く、今自分が研究している運動との関連も見えて面白さを感じました。

みんなが苦労せずに新しい習慣を始められるような世界がくると良いですね。

参考文献

1. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world

2. The Science of Habits - Think habits are hard to create or change? Not if you use the research

石田 淳(2006).『「続ける」技術』 フォレスト出版 p.44-45¥

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