タスクをする際に自然音を聴く効果について簡単な実験をしてみた

column M2 20後藤

こんにちは。M2の後藤です。

私は何かタスクをする際に、雨音やセミの鳴き声などの自然音を聴きながらすることがよくあります。自然音を聴くと心が安らぎリラックスし、集中力が向上・持続する気がするだけでなく、音楽を聴くほど脳のメモリを侵食されない気がするので、非常に気に入っています。今回は、タスクをする際における自然音の効果について、簡単な実験をしてみました。

はじめに

皆さんは何かタスクをする際、BGM(Back Ground Music)を聴きながらすることがあるのではないでしょうか。作業用BGMという言葉は広く定着していますね。BGMの例としては、好きなアーティストの音楽やゲームのサントラ、オーケストラなどがあるでしょう。"Music"ではありませんが、ラジオを聴く人もいますね。

しかしながら、歌詞がある音楽や激しすぎる音楽は、時に集中力を阻害してしまうように感じられます。そのため、論文を読んだり文書を作成したりなど、集中力を求められるタスクの際には、オルゴールなどの落ち着いた音楽、ゆったりとしたテンポのアニメのサントラ、雨音やセミの鳴き声などの自然音、カフェの環境音などを聴きながらすることが多いです。

その中でも特にお気に入りなのが、自然音です。私が田舎出身ということもあると思いますが、自然音を聴くと地元に帰ったような気分になり、とてもリラックスできます。セミの鳴き声を聞きながらするタスクは、さながら小学校の夏休みの宿題のように感じられます。

今回のブログでは自然音に着目し、タスクをする際における効果について簡単な実験をしてみました。

(余談ですが、私は何かタスクをする際、だいたいガムを噛んでいます。ガムを噛むと集中力が向上・持続する気がするからです。実際にある実験では、ガムを噛むことで認知時間や反応時間が短縮し、噛む運動を繰り返すほどその効果が顕著に現れることが示されています[1]。)

関連研究

作業用BGMに関する研究はたくさんあるようです。菅・岩本は、BGMは、作業に対する印象や感想などの「情意的側面」における効果があることを明らかにしました[2]。阿部・新垣は、認知的負荷の高い作業と中程度の作業においてはBGMのテンポの違いによる影響はなく、低い作業においてはBGMのテンポによって作業効率が高くなることを示しました[3]。新井・柏倉は、クラシックを聴いた時に作業量が有意に上昇することを明らかにしました[4]。このように、作業用BGMに関する知見は多く蓄積されてきていると考えられます。

一応、私は学部の頃からノスタルジアの研究をしているので、その視点でも考えてみます 「ノスタルジアとは何か」ではノスタルジアの定義と分類の話をしました。この内容を踏まえて話していきます。

まず、個人的ノスタルジアについて考えてみましょう。個人的ノスタルジアとは、個人的な出来事の記憶に基づくノスタルジアのことでしたね。林・斎藤は、個人的ノスタルジアが喚起される音楽を聴くことで、楽しさを得てリラックスを感じるものの、タスクのパフォーマンスが低下することを明らかにしました[5]。また林は、懐かしい出来事を思い出すと、懐かしくない出来事を思い出した時に比べて計算量が低下することを示しました[6]。このように、「個人的ノスタルジアとタスクの関係性」に関する研究はわずかながら散見されます。

一方で、歴史的ノスタルジアが感じられる音とは何でしょうか。歴史的ノスタルジアとは、自分自身が体験していない、文化的に刷り込まれたノスタルジアのことでしたね。つまり、自然音は歴史的ノスタルジアが喚起される音ということになります。しかし、「歴史的ノスタルジアとタスクの関係性」に関する研究を見たことがありません(私が見つけられていないだけかもしれませんが)。そのため、冒頭で述べた「自然音を聴くと心が安らぎリラックスし、集中力が向上・持続する気がするだけでなく、音楽を聴くほど脳のメモリを侵食されない気がする」というのが本当なのかどうかを確かめたいと思い、簡単な実験をしてみることにしました。

実験

実験のタスクとして、タイピングを取り上げました。また、タスクの条件は以下の3つを用意しました。音の種類はたくさんありますが、自然に作られる音にフォーカスした実験を行いたかったため、今回の実験では人工的に作られた音楽ではなく、自然に作られた音のみを対象としました。音の聴こえ方をより自然にするために、あえてイヤホンやヘッドホンを使わず、音はPCのスピーカーから流しました。

  • 無音条件
  • 自然音条件(田舎の夕暮れの音)
  • 環境音条件(カフェの音)

実験の手順は以下の通りです。タイピングスキルが短時間で劇的に向上することは考えにくいですが、システムのUIへの慣れを考慮し、実験前にタイピングタスクの練習を行いました。

  1. タイピングタスク①(無音条件、5分)
  2. 休憩(5分)
  3. タイピングタスク②(自然音条件、5分)
  4. 休憩(5分)
  5. タイピングタスク③(環境音条件、5分)

評価では、タイピングタスクの結果と生理指標を用いました。タイピングタスクの結果では、入力文字数、正タイプ数、誤タイプ数、正タイプ率、誤タイプ率を取得しました。生理指標では、Muse2と専用のアプリ「Muse: Meditation & Sleep」を使用して脳波と脈拍を取得しました。自然音条件と環境音条件の音については、Muse2のキャリブレーションの時間から流し始めました。


図1. 実験で使用したMuse2

結果

タイピングタスクの結果は表1の通りです。タイピングの速度は自然音条件≒環境音条件<無音条件、タイピングの精度は自然音条件<無音条件≒環境音条件の順に良いという結果になりました。

(私はタイピングがそこまで得意ではありません。結果が全体的に良くないのは気にしないでください。)

表1. タイピングタスクの結果

条件 入力文字数(文字) 正タイプ数(回) 誤タイプ数(回) 正タイプ率(%) 誤タイプ率(%)
無音条件 698 1190 113 91.328 8.672
自然音条件 651 1082 129 89.348 10.652
環境音条件 655 1089 100 91.59 8.41


脳波の結果は図2、図3、図4の通りです。脳波から見るリラックス具合は、無音条件≒自然音条件<環境音条件となりました。


図2. 脳波の結果(無音条件)


図3. 脳波の結果(自然音条件)


図4. 脳波の結果(環境音条件)

脈拍の結果は図5、図6、図7の通りです。脈拍は、さほど差がありませんでした。


図5. 脈拍の結果(無音条件)


図6. 脈拍の結果(自然音条件)


図7. 脈拍の結果(環境音条件)

考察

タイピングタスクの結果から、速さや正確さを求められるタスクをする際には、無音下で行うのが良さそうです。それもそのはず、作業用BGMとはタスクの速さや正確さを犠牲にして、飽きや退屈を軽減するために使用するものだからです。

しかし、脳波の結果を見る限りでは環境音条件で最もリラックスしているようです。タスクのパフォーマンスとリラックス具合(脳波と脈拍)との間には関係がないのでしょうか。はたまた、フロー体験と関係がありそうな気もします。その辺りの知見はあまりありませんので、今後勉強したいと思います。

また、今回は脳波の取得にMuse2と専用のアプリ「Muse: Meditation & Sleep」を用いましたが、このアプリでは脳波の結果は「Active」「Neutral」「Calm」の3区分でしか表示されないため、どれくらい集中しているのかを詳細に分析することができません。有料のアプリ「Mind monitor」を使うと、ガンマ波、ベータ波、アルファ波、シータ波、デルタ波と分けてデータ取得できるそうなので、ちゃんとした研究ではそちらを使用した方が良さそうです[7]。

今回の実験は、被験者が一人、条件の順番も一通りだけという、研究ならありえない実験設計で行いました。被験者特性や条件の順番における影響などを考慮していないため、あまり信頼できないデータです。また、実験は深夜に行ったため、疲れや眠さが結果に影響している可能性もあります。個人の興味の範疇で、予備予備予備実験のような気分でやったので仕方がありませんが、自分の研究ではちゃんと実験設計をしなければいけないなと思いました。

おわりに

今回は、タスクをする際における自然音の効果について、簡単な実験をしてみました。自然音はあまり有効ではなさそうに見えましたが、結果はあまり信頼できるデータではなかったため、真相は定かではありません。自然音の可能性を信じてきたので、少し残念です。

また、脳波や脈拍といった生理指標を使った実験や分析を経験し、研究の知見を深めることができました。橋山研にはたくさんのデバイスがあるので色々と触ってみたいと思っていたのですが、その中の1つとしてMuse2を触って脳波や脈拍のデータを取得してみるという経験ができ、とても楽しかったです。

M1にはBGMの研究をしている小川くんがいるので、彼の研究に何らかの形で刺激を与えられたのなら嬉しいです。今度ゆっくり話を聞いてみたいですね。いろんな研究をしている学生がいる面白さがあるのも、橋山研の魅力だと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

参考文献

[1] 噛むこと研究室「噛めば噛むほど、脳が活性化する?」 最終閲覧日: 2022/06/30

[2] 菅千索, 岩本陽介. "計算課題の遂行に及ぼすBGMの影響について -認知的側面と情意的側面からの検討-." 和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要, 13, 2003.

[3] 阿部麻美, 新垣紀子. "BGMのテンポの違いが作業効率に与える影響." 日本認知科学会大会発表論文集, 27, 2010, 3-47.

[4] 新井良彦, 柏倉健一. "BGM 聴取時の作業効率に関する脳部位の検討." 群馬県立県民健康科学大学紀要, 7, 2012, 45-53.

[5] 林美都子, 斎藤英基. "音楽のもたらす懐かしさが安らぎと認知的作業に与える影響." 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 2013.

[6] 林美都子. "懐かしさが認知的作業に与える影響." 日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会. 日本認知心理学会, 2014.

[7] NRIdigital「Muse2(BMI)で脳波を測ってみた!」 最終閲覧日: 2022/06/30

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