道案内を科学する

column M2 20小林 wayfinding

こんにちは。小林です。
今日は、人はどのように移動するのか? どうやってルートを決めるのがいいのか? といった身近な話題について、その研究動向を皆さんにお伝えします。

wayfinding 研究

人は、移動する時、目的地に向かうために道を探し選ぶ必要があります。このプロセスを、学術的には wayfinding といいます。Farrら[1]は、wayfinding研究のモチベーションや2012年当時の成果を整理しました。その内容をざっくりとまとめると、次のようになります。

  1. wayfinding研究の主なモチベーションは、次の通りです。
    • より早く・迷わず目的地につくことによる利益や、施設・観光地の体験価値向上といった、実用的な利点。
    • なぜ人は迷うのか、どう移動するのかといった、認知科学的な興味。
  2. wayfindingは、歩く目的によって3種類のやり方に分かれます。
    • 「レクリエーション」「断固としてそこへ行く」「緊急避難する」の3つ。
  3. wayfindingを4ステップに分割することができます。
    • 「オリエンテーション」で現在地・目的地・近くのランドマークの位置関係を把握し、「ルート選択」で目的地に向かう経路を考え、「ルート制御」では選んだ経路を確認し実際に歩き、「目的地の認識」つまり目的地についたことを認識できれば完了。
  4. wayfindingは、個人の特性・環境の特性が変化すると、やり方が変わる事があります。
    • 例えば、「男性は遠くにあるものをランドマークとして好み、女性は近くにあるものをランドマークとして好む」「言語が違うと空間認識のやり方が違う」などと言われています。

ここでいうランドマークとは、歩く時に目印として使う、目で見てわかりやすい物体のことです。コンビニの看板、神社仏閣などの特徴的な建物をイメージするとわかりやすいかと思います。


見えやすく、記憶に残りやすいランドマーク

地図上で目的地を見つけ、途中いくつかあるランドマークを小目的地として設定し、小目的地についたらまた次の小目的地を目指し……これを繰り返すうちに目的地に着く。このような形でwayfindingが行われることが、多くの科学者の共通認識になっているようです。我々の実感にも合っていますね。

wayfindingを支援する

それでは、どのようにすれば、道に迷いにくい wayfinding が実現できるでしょうか?

環境をよくする

1つ目に考えられるアプローチが、環境自体をより良くすることです。先程、個人特性・環境特性が変わるとwayfindingのやりかたが変わることを紹介しましたが、このうちの後者を改良するアプローチになります。


ピクトグラムを含む案内サイン

例えば、ピクトグラムは、どの言語・文化を持つ人にも、事前学習なしでひと目で分かるような図形表現です。施設管理者は、ピクトグラムをランドマークとして利用者に提供することで、誰でも迷いにくいwayfindingの実現に近づくといえるのではないでしょうか。

ピクトグラムとは少し違いますが、公共空間のサイン計画に関する研究が、デザインや建築の専門家によって幅広く行われています。

情報システムを使う


徒歩経路検索の例

個人・環境特性を変えるのではなく、情報システムを使ったアプローチも考えられます。今まで、数多くのナビゲーションシステムが考案・実用化されてきました。

最もよく見かけるのが、上図のような、経路検索結果を地図上に図示するシステムでしょう。従来、地図を見ながら目的地までの道を考えていたユーザに対し、地図上のどの道を選べばよいかを一目でわかるようにしたシステムと言えます。上記wayfindingの4ステップにおける「ルート選択」を地図を介して支援するものです。


ターンバイターン ナビゲーション (出典: https://www.honda.co.jp/Nbox/webcatalog/performance/driving/)

これに対し、地図を見なくても良いナビゲーションを考えることもできます。カーナビなどで実用化されている、ターンバイターン形式のシステムです。その場その場において曲がる方向を、図や音声で指示します。車や自転車の運転中など、地図に注意を払えない場合に有効なシステムです。これは、wayfindingにおける「ルート選択」だけでなく「ルート制御」の一部もシステムに代行させている例といえるでしょう。

ランドマーク型ナビゲーションシステム


ランドマーク型 ナビゲーション [2]

これらに対し、wayfindingの知見をより強く意識して作られたシステムが、ランドマークを利用するシステムです。

人は、地図やシステムの画面を見た後、実際に移動するためには、移動のための情報を実際に見える景色と比べなければなりません。目に見える景色から、ランドマークを探し、そこに向かって移動することになります。ランドマーク型ナビシステムは、これに着目し、効率のいい移動を実現するランドマークを探すことを支援します。

このようなナビシステムに関する研究が近年活発に行われています。中でも、森永ら[2]は、システムから利用可能なランドマークとして、点(近くから見られるもの)、面(遠くからでも見られるもの)、線(道路や線路など、線状に連なるもの)の3種類を挙げ、これらを使ったナビゲーションシステムの有用性を被験者実験をもとに評価しました。

今後

画像処理技術が飛躍的に向上したことから、今後は、視覚をベースにしたナビゲーションがますます発展していくことでしょう。

また、現在、VPS(Visual Positioning System)の発展により、スマホカメラ等から画像を入力して現在地を測位することが可能になりつつあります。これを利用し、wayfindingの成功率をより向上させるだけでなく、ランドマーク型ナビを視覚障害者に代わって行うことが現実的になりました。

これからもますます便利になっていく世の中の進歩に、目が離せません。

参考文献

[1] Anna Charisse Farr, Tristan Kleinschmidt, Prasad Yarlagadda, Kerrie Mengersen, “Wayfinding: A simple concept, a complex process”, Transport Reviews, Vol 32, No 6, 2012.

[2] 森永寛紀, 若宮翔子, 谷山友規, 赤木康宏, 小野智司, 河合由起子, 川崎洋, “点と線と面のランドマークによる道に迷いにくいナビゲーション・システムとその評価”, 情報処理学会論文誌, Vol.57, No.4, pp.1-12, 2016.

Previous Post Next Post