ストレス解消の科学 〜音楽を主点として

column M1 21小川

M1 小川です。

今回の話題は、ストレスの解消についてです。
科学的な概説から、主に音楽に焦点を当てたストレス解消について書こうと思います。

ストレスとは



これを読んでいる皆さんも、日々の生活の中で、ストレスを感じる出来事や状況が起こることは少なくないでしょう。
我々が社会で生きていく上では、仕方のないことだろうと思います。



改めて、ストレスとはどのような事物を指すのか、見直してみます。
ストレスとは、自身に起こる出来事に対して、認知の仕方により発生する心理的な反応、或いは身体的な反応などのことを指します。
ストレスを与え得る出来事は「ストレッサー」と呼ばれ、ストレッサーを人間がどう認知するかによって、心理的・身体的・行動的な反応が変化するというモデルがあります。
ストレッサーが人間に影響を与えた結果として起こる反応を「ストレス反応」と言います。

以上のようなモデルの上で起こる体の反応や状況、或いはストレッサーのことを一般的には「ストレス」と呼ぶようです。 ([1]を参考に記述)

ストレス反応


ここで重要になることの一つとして、ストレス反応があります。
ストレスによってどのような反応が起こるかという話ですが、
心理的・身体的・行動的 なストレス反応に分けると以下のような例があります。[1]


1.心理的 ストレス反応
・気分の落ち込み
・怒り
・無気力
・否定的考え
など


2.身体的 ストレス反応
・頭痛
・嘔吐
・食欲低下
・不眠
など


3.行動的 ストレス反応
・ストレスを感じる場面からの回避・逃避行動
・飲酒量の増加
・怒りを爆発させるような行動・言動
など


どのような反応があるかというのは人それぞれですが、主にこれらのようなストレス反応が挙げられます。
私の場合、胃腸面が弱いこともあってか、身体的ストレス反応の中では胃の痛みが多いように感じます。

これらの反応は、異なる面の反応の間でも相互に影響することがあります[1]。

ストレスの解消


ストレスの解消には、気分の切り替えがまず端を発するところとなるでしょう。
気分を落ち着かせたり、癒したりするような刺激を受け取ったり行動をしたりすること、
または楽しいと思えること、つまり趣味をすること、
が気分の切り替えにつながる行動になる場合が多くあります。

例えば、

・落ち着いた音楽を聞く
・外を散歩する
・絵を描く
・適度にゲームをする
・ネット上の動画やテレビを見る

などが挙げられます。


また、福田(2010)は、ストレスを感じる過程や性質によって脳を4層に分けることができるモデルを提唱しており、それは原始脳、情動脳、社会脳、知性脳の4つです[2]。
このうち、特に対照的な2つについて説明をします。


まず原始脳に対するストレスは気温や身体的拘束など、周りの環境によって直接受けるストレスが含まれます。
これに対処するためには、温泉や自然を感じるなどのリラクゼーション、いわゆる「癒し」を享受する必要があるのです。
これにより身体的疲労が取り除かれて、ストレスが解消されるということです。生体的な観点でのストレス解消とも言えるでしょう。

一方で、情動脳に対するストレスは、心理的な影響を受ける事によるストレスを指します。
これについては、そのような心理的圧力を受けないようにできれば最も良いと言えますが、
人間社会では不可能であることが多いです。
そのため、これを解消するためにも、リラクゼーションを得ることが必要、ということになります。
身体的な疲れを癒す行為は、心理的な癒しにもつながるというわけです。


音楽によるストレスの解消


ここでは、中でも音楽によるストレスの解消に焦点を当てます。
ただ刺激を享受するだけの手軽な方法なので、多くの人が実行しているのではないでしょうか。
私自身も、心を安定させたり綺麗さっぱりさせたりするために音楽を聴くことがよくあります。



科学的な証明としては、
音楽を聴くことにより、心理的指標からストレスの解消が認められたという結果[3]や、
音楽に自然音を重ねることでより高いストレス抑制効果を促すことができたという結果[4]があります。

また、音楽と映像によるストレス抑制効果が認められた実験もあります[5][6]。 ここでは歩行のリハビリを必要とする患者向けの歩行訓練器において、
映像をHMD(ヘッドマウントディスプレイ、VR機器の類)で体感しながら音楽を聴くという状況により、
心拍数のような生体的指標から落ち着き効果があったことがわかりました。

これはリアルな環境で言うならば、比較的落ち着いた音楽を聞きながら、外を散歩すると言う状況になるでしょう。
これもまた私自身がよく実行することの一つです。

これらの結果から読み取れることは、音楽により心理的な落ち着きが得られていることが、生体情報や心理的指標(アンケートへの回答状況)からわかるということでした。


音楽によるストレス解消についてのまとめ

音楽によるストレス解消について、総合的にまとめます。

まず、
ストレスというのは、人間の心身に(基本的には)あまり良くない影響を与えるものでした。
ストレスの中でも要因となるストレッサーを受けることにより、心身の反応としてストレス反応が起こり、不調をもたらします。
これを解消するためには、気分を落ち着かせるような音楽などの刺激や、楽しいと思える趣味などを通じた気分の転換が一般的には求められるでしょう。

中でも音楽を用いたストレス解消について、科学的な実験結果をいくつか示しました。
その中で、生体指標の測定から落ち着きを得られた結果や、アンケートのような心理的指標から音楽によるストレス抑制効果を支持する結果も出ています。

これらのことから、音楽は心理的な影響を人間に与えるメディアとして大きな存在のひとつであると考えられます。
その上、現代では各種サービスから簡単にアクセスできるものです。スマートフォン等を所持していれば、場所にかかわらずアクセスすることができます。
行為としても、ネット上などでそれらのサービス等にアクセスし、スピーカー或いはイヤホンから音を流すだけ、ということになります。
これに比べて、例えば散歩という行為だけを考えると、「外に出る」という比較的大きな動機を要する行為が必要になり、天候や気分によっては適さない場合も十分に考えられます。

つまり音楽は、

人間に対するストレス解消につながるだけの心理的効果を持つ
・音楽を聴くこと自体が、手軽な行為である

という特徴を持ったものであると言えます。
もちろん、音楽が与える心理的効果は音楽そのものの特徴によっても異なります。
例えば、動的な音楽と静的な音楽では、与える印象はかなり違うはずです。 しかし、様々な様相の音楽があるからこそ、気分によって聴く対象を選べますし、
各々音楽に対する感じ方・心理的影響の受け方は異なるので、個人個人が心理状況や動機に応じて柔軟に適応させて音楽を選択することが可能です。

このような特徴を音楽が持っていることが、ストレス解消の一手段として優れていると言える要因ではないかと考えています。


おわりに

はじめにも書きましたが、日々の社会で過ごす生活の中には、何かとストレスがつきまとうものです。
できるだけ精神面での不快を取り除き、心身ともに健康的で、楽しい生活を送れることが理想的です。
そのためにも、ストレスのマネジメントをうまくやることが大事になってきます。

音楽をはじめ、ストレス解消方法をうまく行なって、日々をよく過ごしたいものです。


(引用・参考文献)

[1]. 心理的ストレスと対処法/東京大学 保健センター, https://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/stress/ (2022.7.3閲覧)

[2]. 福田正治. 感情と癒し: 脳のストレスとの関連で. 研究紀要: 富山大学杉谷キャンパス一般教育, 38: 39-54, 2010.

[3]. 中嶋麻菜, 海老原直邦, 大平英樹. 音楽のストレス解消効果について-心理的および生理的ストレス指標による検討. 日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第 76 回大会, pp. 2PMA02-2PMA02, 公益社団法人 日本心理学会, 2012.

[4]. 上杉一秀, 足達義則, 大曲和寛, 鈴木昭二. シューマン共振効果によるストレス解消のための音楽生成装置の開発 (特別講演 3)(Without Peer Review)(第 13 回生命情報科学シンポジウム). 国際生命情報科学会誌, 20(1), 202-207, 2002.

[5]. 上杉一秀, 服部隆裕, 岩田大助, 清田公保, 足達義則, 鈴木昭二. 生体情報計測に基づく仮想環境シミュレータを用いた歩行訓練機システムの開発. 国際生命情報科学会誌, 23(1), 55-59, 2005.

[6]. 上杉一秀, 服部隆裕, 岩田大助, 清田公保, 足達義則, 鈴木昭二. 音楽と映像のストレス抑制効果を用いた実時間体調モニタ付き屋内歩行訓練機の開発:(研究発表, 第 25 回生命情報科学シンポジウム). 国際生命情報科学会誌, 26(1), 112-116, 2008.

Previous Post Next Post