M2の植田です。どんなビデオゲームをすると人間にどのような良い影響があるかについて調べたので、今回はその研究について書いていきたいと思います。

FPSの場合

FPSとは、First Person Shooterの略称で、1人称視点のシューティングゲームを指します。

初めに紹介するのは、日常的にビデオゲームをプレイする人、特にFPSをプレイする人は認知能力が高まるという研究です[1]。この研究の実験は大きく2段階に分けて行われています。

1段階目は、FPSを中心としたアクションゲームを日常的にプレイする人とゲームを全くプレイしない人を比較して実験を行うというものです。その結果、アクションゲームを日常的にプレイする人の方が視覚的注意の認知能力の成績が高いということがわかりました。

しかし、これでは日常的にゲームをするから認知能力が優れているのか、もともと認知能力が優れている人が日常的にゲームをプレイしているのかがわかりません。

そこで次の段階では、日常的にゲームをプレイしない人を、FPSをプレイするグループとパズルゲームをプレイするグループに分け、10日間1日1時間プレイさせました。その結果、パズルグループでは、特に変化が見られませんでしたが、FPSグループでは、「新しい敵の検出」、「敵の追跡」、「被弾の回避」に相当する認知能力が向上しました。

このことから、少なくとも10日間1日1時間FPSをプレイすることで、認知能力が向上することが分かります。

RTSの場合

RTSとは、Real-Time Strategyの略称で、リアルタイムに変化する状況に対応し、計画を立てて敵と戦うゲームを指します。

次に紹介するのは、RTSをプレイした時の影響についての研究です[2]。この研究では、2つのRTSゲームを比較して認知的懐柔性にどのような影響があるのかを調べています。認知的懐柔性とは、あるタスクから柔軟に別のタスクに切り替えることができる能力のことを指します。別のことにすぐ対応できる、1つのことにこだわりすぎない、ということです。

結果として、複数の情報源や行動源の維持と迅速な切り替えを重視したゲームを1日1時間(合計40時間)プレイした条件で、ビデオゲーム以外の幅広いタスクで測定した認知的懐柔性が大きく向上することが分かりました。認知的懐柔性が高まることで、タスクの切り替えをよりスムーズに行うことができます。

仕事をしていても勉強をしていてもタスクの切り替えは必ず起こることであり、その切り替えがスムーズに行えるのは非常に重要な能力だと言えます。

パズルの場合

パズルゲームでは、3Dパズルゲームと脳トレーニングゲームを比較した研究があります[3]。脳トレーニングゲームを8時間プレイしたグループには特に変化は見られなかったものの、3Dパズルゲームを8時間プレイしたグループは、プレイの前後を比較したところ、問題解決能力、空間能力、粘り強さが向上したことが分かりました。

これまではゲームをプレイすることで認知能力の向上が見られるという結果が多かったですが、この研究では、粘り強さという、認知とは別の能力の向上を確認することができました。

また、生理指標や心理指標を用いて評価を行った研究[4]において、パズルゲームの習熟前後でアミラーゼ活性が減少し、習熟後は特にそれが顕著に表れていました。アミラーゼは、メンタルストレス評価のためのマーカーとして実用化されており、これが減少したということは、ストレスが軽減されたということが言えます。さらに、POMSという心理指標(一時的な気分の状態を測定できる)では、習熟前に抑うつが減少していることがわかりました。

パズルゲームをプレイすることによって、心理状態を安静にすることができるということです。

おわりに

今回はビデオゲームをプレイすることで人間にどのような良い影響があるのかを紹介をしました。

ゲームはまず大前提として楽しむために行うものですが、それに加えて「〜が良くなる」といった副次的な効果が得られればもっと多くの人にゲームをしてもらえるのではないかと考えて調べていました。

調べていて私が考えたこととして、「そのジャンルのゲームだと必ず起こるのか」「一時的にゲームをした影響はどの程度持続するのか」「どんな人間に対しても一定の影響が見込めるのか」などがあります。

例えば、短時間ゲームをした影響が数時間持続できるのであれば、仕事や勉強の合間に短時間ゲームをプレイし、その後の仕事や勉強を効率的に進めることができると考えました。そうすることで、ゲームを普段やらない人にゲームをするきっかけを作ることができます。

このような研究が進んでゲームを今よりもっと他のことに応用できるようになり、より多くの人にゲームを楽しんでもらえるような世界になることを願っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

文責:橋山研究室 植田 匠

参考文献

[1]Green C. S., Bavelier D. Action video game modifies visual selective attention. Nature. 423. 534-537. 2003. https://www.nature.com/articles/nature01647

[2]Glass B. D., Maddox W. T., Love B. C. Real-Time Strategy Game Training: Emergence of a Cognitive Flexibility Trait. PLos ONE. Volume 8. 2013. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0070350

[3]Shute V. J., Ventura M., Ke F. The Power of Play: The Effects of Portal 2 and Lumosity on Cognitive and Noncognitive Skills. Computers & Education. 80. 58-67. 2015. https://www.researchgate.net/publication/264992715_The_Power_of_Play_The_Effects_of_Portal_2_and_Lumosity_on_Cognitive_and_Noncognitive_Skills

[4]加藤 亮, 河合 隆史, 池下 花恵, 他. 携帯型ビデオゲームソフトの人間工学的評価. デジタルゲーム学研究. 2巻1号. 2008. https://www.jstage.jst.go.jp/article/digraj/2/1/2_67/_article/-char/ja/

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